SPEICIALITY

専門グループ

代表的な疾患

寛骨臼形成不全

<診断>

股関節は寛骨臼 (骨盤側の受け皿)に大腿骨頭 (ふとももの骨の付け根)がはまる形でつくられる球関節です。大腿骨頭に対する寛骨臼のかぶり具合が浅い状態を寛骨臼形成不全といいます。股関節が不安定な状態であり、軟骨がすり減る原因となります。レントゲン写真で、大腿骨頭に対する寛骨臼の被り具合の浅さを計測し診断します。主な症状は歩行時の痛みです。

<治療法>

体重をかけて立つ、歩く際に股関節部分に痛むといった症状が続く方で50歳未満の方(50~64歳の方は関節の状態によります)に対し、日本では寛骨臼のかぶりを改善するための骨切り術がなされてきました。
当科では1995年より前教授 内藤正俊が考案した骨盤側骨切り術の一つである Curved Periacetabular Osteotomy (CPO)を行っています。
従来の骨切り術と違う主な利点は

  1. 仰向けに寝て行う
  2. 股関節前方に体格に応じて約5~7㎝の小さい皮膚切開を加える
  3. 中殿筋などの歩行や片足立ちに重要な筋肉、大腿直筋という膝を伸ばす筋肉をいっさい剝がさない

といった点です。

女性の患者さんが大半であるため、手術のキズが小さいというのは非常に喜ばれます。
95%の方が約15年以上自分の関節を保っておられますが、やはりある程度軟骨がすり減ってからこの手術を受けられた方は、術後に軟骨がさらにすりへり人工関節置換術を受けておられます。
手術後2週間経過してから手術側の脚に徐々に体重をかけていき、手術後約2か月半で全体重をかけます。手術後3~6か月で杖が外れ、手術後6か月以降で重労働やスポーツ復帰を許可しています。

変形性股関節症

<診断>

日本人における変形性股関節症の原因の約8割程度が寛骨臼形成不全によるものといわれています。他に、骨折などの外傷、感染症で破壊されたあと、その他の原因で股関節の軟骨がすり減り、痛みを伴います。動きはじめがとくに痛む、関節がかたくなる、脚の長さが短くなるなどの症状がでます。エックス線写真で関節の隙間が狭くなる (関節裂隙の狭小化)、骨の棘が出来る (骨棘形成)、骨に孔が空く (骨嚢胞の形成)などを認めると、本疾患と診断します。

<治療法>

人工股関節全置換術 (Total Hip Arthroplasty: THA)を行っています。最大の利点かつ目的は痛みなく歩けるようになることです。現在の人工股関節はポリエチレンライナー(軟骨の代わりになってくれる部分)や表面加工の進歩により、おおよそ8~9割の方が30年以上もつであろうといわれています。術後10日~1か月 (含む転院)で退院する方が多いです。主な合併症は脱臼と感染症です。近年は各施設とも様々な工夫を行うことで脱臼率は1%未満になっていますが、それでも生じているといった現状です。
手術の際に股関節に進入する方法として大まかに股関節の前方、側方、後方いずれかからアプローチしますが、当院では後方アプローチ (Posterior Approach) と仰臥位前外側アプローチ(Anterolateral-spine Approach)を用いています。また症例によってはナビゲーションシステムを併用しています。同日に両側を行う患者様も増えました。
前外側方アプローチの利点は、筋肉を切ったり裂いたりせずに手術が行えるため術後の回復(歩く、階段を上るなど)が早い、術後の痛みが少ない点です。
後方アプローチで行う場合はいったん筋肉を骨から外しますが、最後にきちんと骨に縫い付けることで脱臼に対するリスクを軽減しています。
感染症対策として人工関節置換術に適したクリーンルームで宇宙服のような防護服を着て行う、抗菌薬の適切な使用などに努めています。

大腿骨頭壊死症

<診断>

大腿骨頭で血流不全が生じ、圧潰する(潰れる)ことで痛みを伴います。骨折や脱臼などが原因が明らかなものもが、アルコールが関連したもの、ステロイドが関連したものを含め、発生機序が不明のもを特発性大腿骨頭壊死とよび難病指定疾患となっています。一般的にレントゲン写真やMRIで診断します。

<治療法>

壊死部分の圧潰が少ない時期は可能な限り大腿骨骨切り術を行い、自分の股関節を温存すること目指します。ただし、壊死の範囲が広い方、すでに大腿骨頭がかなり圧潰している方や軟骨がすり減っている方に対しては人工股関節置換術を行います。

大腿骨頭軟骨下脆弱性骨折

<診断>

「Subchondral Insufficiency Fracture」と表記され略して「SIF」と言われています。大腿骨頭の軟骨を支えている部分の骨が折れ、痛みを伴います。日常生活の動作や軽微な外傷で生じる場合があります。レントゲン検査やMRI検査などを行います。若年者から高齢者まで生じますが、とくに65~70歳以上の高齢者に多くみられ、骨粗鬆症が関連していると言われています。

<治療法>

疼痛が少なかったり、骨頭の圧潰(潰れること)が少ない場合、受傷後2週程度は体重をかけないようにして、その後は痛みに応じて鎮痛薬や杖などを使用し、出来る限り骨頭が圧潰しないようにする保存的治療を3か月ほど行います。それでも痛みが持続する場合やすでに骨頭が圧潰し軟骨がすり減った場合は人工骨頭置換術や人工股関節置換術などの手術治療を行います。高齢の方に生じた場合に保存的治療に固執し過ぎると、疼痛により歩行能力や筋力が低下し過ぎるため、手術治療を適切な時期に選択することが大切です。

大腿骨近位部骨折

<診断>

大腿骨近位部骨折は、大腿骨の付け根部分が骨折するもので、高齢者に多く見られる疾患です。主に転倒や転落、交通事故、腫瘍の転移などが原因ですが、骨粗鬆症により骨がもろくなった高齢者では軽い転倒でも骨折することがあります(脆弱性骨折)。症状としては、股関節や太ももの痛み、立ったり歩いたりできないことが特徴です。診断はX線(レントゲン)検査を中心に、必要に応じてCTやMRI検査で詳しく確認します。

<治療法>

骨折の種類、骨のずれ具合、患者さんの年齢、活動レベル、全身状態を総合的に判断して決定します。多くの場合、早期の手術が推奨されます。
頸部骨折:骨の血流が悪くなることが多いため、人工骨頭置換術や全人工股関節置換術を行うことが一般的です。
転子部骨折:骨癒合が期待できる場合は、スクリューやプレート、髄内釘を用いた骨接合術を行います。
手術後は、可能な限り早期にリハビリテーションを開始し、歩行や日常生活への早期復帰を目指します。また、肺炎や深部静脈血栓症などの合併症を防ぐことができます。